誰かを救いたがったのは、己が救われたいからに他ならなかった。
消えられないという不安のかわりに、ただ許される――そんな安寧を手に入れたかった。
返答者のいない償いは、やがて自らの首を締め上げる。
傷痕のない苦痛はやがて焦りとなり、衝動を伴わせる。
ただ一人、誰か一人、キミのため――そっと嘯いて、己に刃を刻み込んだ。
「僕」とは即ち、「私たち」の総称である。
自分を名乗るこの身は既に「私たち」の巣窟で、寄生虫が這う骸。
僕は、私たちは、ただの人殺しにすぎない。
自らを消せない腹いせを、神に、世に向けただけ。
“うらみ”とは美徳であり、殺意は原動力だった。
こんな僕の思考感情など取るに足らない子供の我儘と同義で、或いは老人のように萎びたものだ。
だがそんなものなんじゃないのか?
本当はみんな犯罪者なんだろう。
僕じゃなくても成り立つ、希望と絶望の世界だった。
僕という偽善者が捧げられる精々は、“今”という存在を認め、受け入れてやることだけだ。
現実という世界の片隅、無機質な部屋の壁相手に呟いた言葉は、果たして何だったか。
そもそもここにいる「僕」は、誰だったのか。
心が一つじゃ足りなくなっていく。
そんな俺のすぐ傍で、彼はずっと、ずっと囁いていた。
『僕はキミと同じ、一緒だね』